一昔前は身寄りのない老人がソレだった。子どもや孫がいるものの、年柄年中遊びにくるわけでなし、二世代三世代同居を拒むあるいは拒まれた老人は、伴侶がいる内はともかく、いずれかが他界してしまえば「独りぼっち」になってしまうケースが多かった。老人ホームに入った人でなくても地方自治体の施設や病院などでコミュニティを作って「寄り合う」老人もいるが、都市部はともかく地方の過疎部に暮らす老人などは「独り」でいる時間は長かろう。いいか悪いかは別にして「話し相手がいない」という状況はある意味「自然」ではあった。
しかし昨今の「ひきこもり」流行りというか、老人にならない内から「話し相手がいない人」というのは増えたように思う。世捨て人の如く「他人と関わるのが嫌だ」という要因を持つ人も少なくない。その裏には核家族化がもたらした「コミュニケーション下手」の社会が背景にあるのかもしれない。単に人と交流するのが苦手であれば「話し相手」がいなくても問題はないはずだ。しかし「コミュニケーション下手」が根幹を為すのであれば、それは「話したいのに話せる相手がいない」ということになる。ここ数年、そういう人たち向けのグッズが増えたように思うが気のせいか。
ITmediaライフスタイルの記事(9月8日付):
「“聞き上手”な人形に踊る盆栽――ギフトショーの癒し系?グッズ 」
リンク先には色々な癒し系グッズが発表されているが、冒頭にある「うなずきんちゃん」はネーミングセンスの秀逸さとともに、先に挙げた「話したいのに話せる相手がいない」人に向けて上手いこと作ったなと感心させられる。究極の聞き上手は状況に応じて的確に肯定・否定の反応をするだけで、余計なことは言わない。それをこのグッズは記号化しているのだ。それは見事であり、同時に「悲しい生き物」になりつつある人類の行く末を暗示させる。
一昔前はこういうものは「小言のうるさい上司」や「人に相槌を打つ隙を与えない喋り好き」に対してプレゼントされるジョーク・グッズとして贈られるようなものだった。もはやジョークでは済まされない時代が来ているということなのか。