引越して既に5日経つのだが、一向に部屋が片付かない。引越してきたときと何ら変化がない。ああ、自分は本当に駄目人間だなと思っていたんだが、理由がわかった。
私はあるとき「なんで自分はスキーに行かないんだろう」と思ったことがある。やったことがないわけではない。カタチこそ不格好だが、上級者コースもそんなに躊躇なく滑り降りることだってできた。骨折しただのナンパに失敗しただの高い金ふんだくられただのいうことがあったわけでもないのに、なんでそんなにスキーに行かないんだろう、と思ったのである。
その年、久しぶりにスキー場に行ってようやくわかった。
「リフトに乗っている間が寒いし怖い」
いつもスキー旅行から帰ってきた直後までは覚えていて「当分スキーには行きたくない」となるのだが、暫くすると「スキーには行きたくない」という概念だけが残って、何故行きたくないのかを忘れてしまうのだな。私は人一倍物忘れが激しいのだ。
では、何故部屋が片付かないのか。これはいつも帰宅していたら思い出しているのに、会社にいるときは忘れているのだ。さっき会社の先輩と話をしていてようやく思い出した。
「電灯がないので、会社から帰っても真っ暗で何もできない」
風呂場や手洗いや台所には照明が備えつきのものがあるのだが、肝心の居間や寝室はないのだな。そりゃ片付けようと思っても無理だわな。
それほどまでに私は物忘れが激しい。よくも台本を覚えて舞台なんぞに立っていられるものだ。と思う。